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  天川村洞川は、大峯登山の基点の町。町を歩くと古い旅館や漢方薬の陀羅尼助を製造販売する家が軒を並べ、独特の雰囲気を醸しています。洞川の一年は5月3日の大峯山戸開けから9月22日の戸閉めの間に凝縮されます。毎年4月には“すそあげ”と呼ばれる大掃除をして戸開けに備えますが、この日を境にして静かな里は急に活気づくのです。戸開けから戸閉めまでの5ヶ月間に数十万人を超す行者や観光客を迎え、もてなします。行者による山上詣りは“講”と呼ばれる団体を組んで行われます。修験寺を中心とするような大きな講は100人を超す大所帯ですし、小さな講でも10人前後の団体となるそうです。
  こうした講の人々をもてなしてきたのが行人宿で、現在洞川には22軒の旅館や民宿があります。玄関や縁側には、講の名前を墨書きした提灯が下げられ、洞川ならではの景観です。講は宿を決めると変えることがありませんから、代々の付き合いとなるとか。命をかけて修験へ向かう人々の緊張を受け止め、早朝の出発、宿入りにも対応してきました。だからチェックイン、チェックアウトの時間も臨機応変。洞川の人々は行者の全てを受け入れ、支えてきたのです。喫茶店でもお土産ものの店でも、対応がほっこり温かいのですが、これも全てを受け入れるという歴史が培ったものなのでしょう。
 洞川は洞川湧水群と呼ばれるほど湧き水が多いところです。中でも「ごろごろ水」は有名で遠くからも水を求めて来る人で賑わうようになりました。名水をつけた商品には人気があって、行者よりも観光客が多くなったほど。「名水とうふ」の山口屋は大変な人気で売り切れることも多いので、できれば予約するか、午前中に行くといいでしょう。しぼりたての豆乳も絶品です。「名水ごまどうふ」もごまの香りが豊かで評判のおいしさ。主の小屋さんによるとこつは「一生懸命つくること」だそうです。何とも屈託のない笑顔につられて、頬がゆるむのですが、それが洞川の魅力だと思われます。
  水がよければ蕎麦だっておいしいはずと手打ち蕎麦「清九郎」もできました。打ち立ての蕎麦をゆで、たっぷりの名水でさらすとぐっと締まり、コシのある蕎麦のできあがり。洗練された味わいです。
  美しい川に育つ魚も洞川の名物。川魚センターでは注文を聞いて水槽から魚が揚げられ、すぐに串を打って炭火焼に。イワナやニジマスがこんなに美味しかったとは、と箸が進みます。
  石灰質の岩盤を水が通って、できる鍾乳洞も見所のひとつです。はるかな時間をかけてつくりあげたアートギャラリーは真夏でもひんやりと涼しく、別世界へと誘われます。
  修行へと至る宿場の里は聖と俗との交差点。近年は温泉も湧き、深い緑、青く清らかな水に恵まれ、他では味わうことのできない情景に出会います。修行の身ではなくとも一度は訪れたいのが見目麗しい洞川の里なのです。
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大峯奥駈道を行く 「第4回 聖と俗が交わる街、洞川」

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